サテライト
家具デザイナーのチャールズ・イームズが製作した映像で、「パワー・オブ・テン(10の累乗)」というのがありました。芝生の上でピクニックをするカップルの映像が10の累乗の倍率でズームアウトして空中へ、サテライト(人工衛星)へ、そして宇宙からの映像まで遠ざかって行く。次に映像はズームインして宇宙から地球へ、アメリカへ、シカゴへ、芝生の上のカップルへ、続いて男の手の中の原子核まで潜って行く。
この映像は建築家のエリエール・サーリネンから学んだこと(常にひとつ小さいところから、また、ひとつ大きい見地から物事や問題を見つめることがデザインの真髄である)を表現したものだと云われている。
私は最近、これに似た体験を楽しんでいます。すでにご存知かもしれませんが、それは「google earth」というネットのサイトです。これに入ると、まず宇宙に浮かんだ地球が表れます。次にマウスを操作して、例えばギリシャのアクロポリスを指示すると、地球は回転し始め、北アメリカからヨーロッパへ飛び、ギリシャを目指してズームアップし、アクロポリスの丘のサテライト写真が出て来ます。拡大ボタンを押し続けると、パルテノン神殿の列柱とその影までが識別できるようになります。主要な都市ならば、車の一台の大きさ、人影らしきものも識別可能です。軍事用のサテライトでは兵士の肩章が識別出来る性能があるとか云われているようです。
かってジャンボ機の丸窓に顔をすり寄せて、下界の地理、景観をめずらしそうに眺めていた頃が遠い昔の出来事のように感じさせてくれるようなサイトです。我が家からニューヨークの五番街まで20秒足らずで飛ぶ事が出来ます。しかもこの都市では、3Dの立体映像によって超高層ビル群を視点を変えながら見る事も出来ます。
朝の散歩で、世界の都市を巡ることも容易です。またこのサイトは道路情報も重ね表示が出来るので、グラスゴーにあるマッキントッシュの出世作「グラスゴー・アート・スクール」も立面図に表示されているRENFREW ST.とDALHOUSIE ST.という道路表示を頼りにその敷地を特定することが出来ました。またイリノイ州のオーク・パークに飛んで、フランク・ロイド・ライトの自宅兼スタジオを拠点として、初期の住宅群の施行監理とユニティ教会への礼拝を追体験することも可能です。またイタリアのフィレンツェにあるブルネレスキ作ドゥオーモとミケランジェロ作サン・ロレンツォ教会との近接な位置関係とかこの街の高密度な文化遺産を実感することも容易です。このサイトはネットらしいさまざまな使い方の可能性を秘めていると思います。21世紀の映像文化革命の第一歩になるかもしれません。
私がこのサイトでバーチャルな旅行を楽しんでいると、奥さんがとても不安そうな顔つきで覗き込んでいます。彼女はこのサイトを海外旅行の敵としてとても憎んでいることを付け加えておきます。
2006.4.8 – 日高卓三
この映像、中学の美術の授業で見たことがあるのを急に思い出しました。
YouTubeで検索したら日本語吹き替え版が出てきましたので、下記にリンクしておきます。
この記事は旧エキサイトブログ「室内気候」にて人気だったエッセイを再編集したものです。
投稿日と執筆日では年数が離れていることをご了承ください。
編集:北村